神奈川県・山北町・陸自駒門駐屯地の給水車問題は統制違反 ― 2019年10月16日 00時00分02秒
神奈川県山北町が陸上自衛隊駒門駐屯地に直接派遣要請をして到着した陸自の給水車が給水できずに帰ったことについて、神奈川県が批判されているようだ。
陸自の給水車支援がムダに 「ルールが違う」という神奈川県対応に疑問噴出
上記の記事は比較的冷静で客観的な方なのでリンクした。他の記事では山北町長にしか取材していないが、上記の記事では山北町と神奈川県と陸上自衛隊駒門駐屯地にコメントを求めて、前2者が回答している。
まず、自衛隊に派遣要請する仕組みを確認しておこう。
災害派遣の仕組みDisaster relief operation(陸上自衛隊)
この図によると、いずれの場合でも防衛大臣または防衛大臣の指名する者の派遣命令で災害派遣活動に入ることになる。
今回の場合、山北町長は神奈川県知事に派遣要請をしたり、防衛大臣に通報するよりも前に知己の陸上自衛隊駒門駐屯地に直接連絡を取った。そして陸上自衛隊駒門駐屯地は大臣の命令もないままに現地に赴いた。
そして、陸上自衛隊駒門駐屯地が給水することなく帰ったのは、自衛隊側の判断であるということである。
山北町によると、台風による被災が予想されたことから、町のエリアを担当する約20キロ離れた陸上自衛隊駒門駐屯地(静岡県御殿場市)と断続的に情報交換していた。断水が発生した可能性が高いことを伝えると、陸自側は事前の準備を開始。13日午前6時前には出発準備が整ったことや、必要があれば県に災害派遣要請を求めるよう町に伝えた。これを受けて、町は電話やFAXで県に派遣要請を求めた。
駒門駐屯地では支援活動を急ぐため夜を徹して早めの準備をしていたが、結果的に到着時点では派遣要請は出ていなかった。手続き上、要請が出ないと支援活動を始められないため、陸自側の判断で13日午前8時過ぎには撤収したという。
これは、自衛隊の一駐屯地が大臣の命令を受けずに勝手に災害派遣行動したことを自衛隊上層部に咎められて帰隊したのではないのか。だとすれば組織的には重大な統制違反である。軍(に準じた組織)が、指揮命令系統を無視して懇意の部外者の要請に応じて勝手に部隊を動かして、軍(に準じた組織)のリソースを手続きを経ないで処分しようとしていたわけである。さらに大臣を抜きに勝手に行動しているわけだから文民統制違反でもある。組織内部的にも憲法上も重大な違反行為なのである。だから、この件について陸自駒門駐屯地の広報担当者はノーコメントなのだろう。マスコミは防衛省や防衛大臣の側にもコメントを求めるべきであった。
陸自駒門駐屯地の広報担当者は、給水車3台が活動できないまま撤収した事実関係は認めたが、「この件に関してはコメントを差し控えたい」している。
自衛隊の災害派遣については、文民統制(シビリアンコントロール)を守る観点や、市区町村でバラバラに求めて混乱するのを避けるため、都道府県知事が要請することになっている。現場の独断専行を許さないためにも、このルールは徹底されている。
阪神・淡路大震災などこれまでの災害でも、要請に時間がかかり初動が遅れたとの批判があった。近年では、自衛隊は正式な要請を待たずに準備を整え、都道府県もすみやかに要請するよう、改善が進んでいた。それだけに今回の神奈川県の対応には、ネット上などでも疑問が噴出している。
最後の段落は今回の場合と違って、事前に通常ルートの連絡(市町村長→都道府県知事→大臣)は取ってあって、手続きが済む前にもういつでも実施できるように準備していることを指しているのであって、今回のように、県知事や大臣に無断で自衛隊の一部門に勝手に話を付けてそれに自衛隊の一部門が勝手に応じているのとは違う話なのである。準備も大臣側からの指示があって準備している場合の話なのである。今回の場合、大臣に話が行く前に既に駐屯地が動いて現地に行ってしまっている。
自衛隊関係者や政治家やマスコミの方は、この重大な統制違反をきちんと追及して処分していただきたい。重要な問題である。こんなことがまかり通れば、一司令官と仲良くしている地域だけが優先的に自衛隊の支援を受けられることになってしまい、行政の公平性や自衛隊の文民統制も崩壊してしまう無法地帯、無政府状態になってしまう。
【追記:2019年10月20日】
防衛省・自衛隊(災害対策)の公式Twitterの表明があったようなので、引用しておきます。山北町長の言い分と矛盾するが、「うまく収めた」形になっている…。
防衛省・自衛隊(災害対策)@ModJapan_saigai
13日、神奈川県山北町から部隊に、給水支援要請の可能性が伝えられました。町役場到着後、県が対応するため支援は不要との説明を町から受け、部隊は帰投しました。なお、水を捨てた、陸自第1師団長が引き上げを指示したとの事実はありません。自治体と密に連携して災害対応を継続していきます。
13日、神奈川県山北町から部隊に、給水支援要請の可能性が伝えられました。町役場到着後、県が対応するため支援は不要との説明を町から受け、部隊は帰投しました。なお、水を捨てた、陸自第1師団長が引き上げを指示したとの事実はありません。自治体と密に連携して災害対応を継続していきます。
— 防衛省・自衛隊(災害対策) (@ModJapan_saigai) October 17, 2019
Twitterの時間表示は端末に依存するらしく、正確な時間が分かりにくくなっている(時間の後にUTCとか書けばいいのに)。使用場所を日本に設定したアカウントでログインすると20:25の表示になるので、それがこのツイートの日本時間なのだろう。さらにTwitterの引用表示の日時にポインタをあわせると「投稿時刻: 2019年10月17日 11:25:58 (UTC)」と出るのでJSTの20:25に投稿されたもので間違いないと思う。
【追記ここまで】
コメント
_ とうほく人 ― 2019年10月16日 22時49分22秒
_ 一市民 ― 2019年10月16日 23時07分56秒
怪しい外国人がいるので町長から対処を懇意の自衛隊隊長に依頼し
善意の外国人を対処しても許される行為です。すなわち対象者の祖国から最悪宣戦布告される行為です。
自衛隊は外国からみたら確実に軍隊です。
このような統制の取れていない軍隊は信用されません。自衛隊は救助は補助業務であって自衛任務が本質です
_ Haniwa ― 2019年10月17日 08時16分43秒
山北町長がたまたま駐屯地上層部と懇意にしていたために順番を間違えたのだと思います。駐屯地も間違った(こっちは憲法上の問題になります)。
問題の根本は自衛隊は軍事組織だということです。軍事組織が軍事以外で動くのは最終手段だということです。ですから町はまず通常の行政でなんとかならないか手を尽くす必要があります。それが神奈川県のいう「自衛隊に要請する前に、まずは県や日本水道協会に支援を求めるべきだ」ということです。
自衛隊が災害救助隊ならこのような手順は法定されていなかったと思いますよ。軍事組織を動かすものだから大臣の命令が必要になっているんだと思います。
>軍隊、という視点であれば落第ですが救助隊、という視点で見れば100点の回答なのでは。
仰るとおりだと思います。ですから給水車も給水できずに帰らざるを得なかったのでしょう。自衛隊は「災害救助申請をしてくれ」と山北町に言っていますよね。ただ、災害救助申請に値すべきかどうかを駐屯地で判断する権限はないですから、準備だけして命令を待つことになるはずのところを、給水車を出してしまった。山北町が駐屯地に連絡するときに県や水道協会に連絡していれば、先にそちらの給水車が来たはずです。
>今回の事を十分に検討して「自衛隊に依頼しなくても迅速に対応できるようにする」か「速やかに白旗を上げて自衛隊に要請できるようにする」仕組みを作って欲しいと思います。
実際にそうなっています。県に相談する前に懇意の駐屯地に相談するのが間違っているんだと思います。
>何となくですが仲の良い、とかでなくて一番近いところに声を掛けたのでは?と思います。
私は個人的なつながりだと睨んでいます。山北町は法治主義ではなく人治主義になっているんだと思います。今回の統制違反、文民統制違反については自衛隊内部、政府内部できちんと処分していただきたいと思います。駐屯地の誰が給水車に命令を出したのか、きちんと調査公表すべき事案だと考えています。
■ 一市民様
そうなんです、自衛隊の一部門の権限外の行動が許されたら大変なことになります。
災害派遣が一見大げさそうな手続きになっているのも、自衛隊が軍事組織だからです。外国では日本の軍隊だという扱いを受けていますし、交流するときもそういう扱いになっていますよね。
>このような統制の取れていない軍隊は信用されません。自衛隊は救助は補助業務であって自衛任務が本質です
本当にそう思います。自衛隊内部で深刻な議論がなされていることを願います。
私がもし自衛隊上層部だったら星野仙一氏みたいに怒って椅子蹴飛ばして「命令した奴今すぐここに連れてこいっ!」と怒鳴っていると思います(違)。
二重投稿はひとつにさせて戴きます。m(_ _)m
●お二方とも冷静な議論をありがとうございます。
この記事をTwitterに投げようかなとも思いましたが、あそこでは論理的な議論は出来そうもないのでここにだけ書きました。多くの人に見てもらうにはTwitterにもリンク貼った方がよいことは分かってはいるのですが。
_ small-talk ― 2019年10月17日 10時32分14秒
軍隊としての機能、救助としての機能をちゃんと線引きして、災害時でも迅速な対応が採れるような仕組み作りです。
もっとも、最近の傾向として、自衛隊に頼りすぎている気もします。
例えば、道志村の少女行方不明事件に、自衛隊が捜査協力したではないですか。
心情的には分かりますが、本来の自衛隊の任務から、かけ離れすぎでしょう。
今回の給水にしても、もちろん住民の人の気持を考えれば、水を配るべきですが、それが本当に一刻を争う事態なのかは、ちゃんと検証するべきですし。
これが、川に人が溺れかけていて、今まさに自衛隊員しか助けられない、みたいな状況ならば、もっと難しい問題になりますよね。
_ めがねのパイロット ― 2019年10月17日 21時04分19秒
私もこの件、駐屯地の独断専行が気になっていました。
ハリウッドならこんな規律無視もヒーローでしょうが、現実的には危険ですね。
_ Haniwa ― 2019年10月18日 17時46分16秒
>自衛隊の災害救助、もう少し法整備が必要なのかもしれませんね。
>軍隊としての機能、救助としての機能をちゃんと線引きして、災害時でも迅速な対応が採れるような仕組み作りです。
仰るとおりだと思います。軍事部門と災害救助部門を完全に分けて、非常事態省とか緊急事態管理庁(FEMA)にするとよいのかもしれませんね。
>もっとも、最近の傾向として、自衛隊に頼りすぎている気もします。
>例えば、道志村の少女行方不明事件に、自衛隊が捜査協力したではないですか。
>心情的には分かりますが、本来の自衛隊の任務から、かけ離れすぎでしょう。
そうですよね。あの事件気になっていたのですが、手がかりが全くありませんね。
警察の初動の人数が少ないのが気になっていました。
この記事とは逸れますが、見つかって欲しいです。
>今回の給水にしても、もちろん住民の人の気持を考えれば、水を配るべきですが、それが本当に一刻を争う事態なのかは、ちゃんと検証するべきですし。
断水した時点で県や県水道協会に連絡していればすぐに手配されたはずです。先に自衛隊の駐屯地に直接話して駐屯地がそれを受け容れて勝手に動いたのが問題だと思いますね。災害派遣に拘らなければ、「たまたま通りすがりの給水車に水をもらった」でもいいはずなんですが、それができないのは自衛隊は勝手にそんなことができないような仕組みになっているからでしょう。軍事組織だからです。やっぱり自衛隊の文民統制違反なんですよ。あと町長の行政能力の問題。軍事と行政の区分とか、仕組みが分かっていない。町長はどっかの大学の政経学部出身らしいですが。
>これが、川に人が溺れかけていて、今まさに自衛隊員しか助けられない、みたいな状況ならば、もっと難しい問題になりますよね。
その場合は任務を帯びていなければ、助けても大丈夫だと思いますよ。
別の任務を帯びていたら、消防に連絡して自分の任務遂行なんでしょうね。任務を帯びていても緊急避難的に助けることが認められる場合もあるかと思います。今回の場合とはちょっとケースが違うと思いますが。
■ めがねのパイロット様
>私もこの件、駐屯地の独断専行が気になっていました。
同じ感想をお持ちの方がいて安心しました。
災害派遣の手続きが厳格なのは、自衛隊が軍事組織だからなのに、防衛大臣ないし大臣が指定した者の命令がないのに勝手に当事者同士で話を付けて軍隊を動かしている点が非常にまずいと思いました。
>ハリウッドならこんな規律無視もヒーローでしょうが、現実的には危険ですね。
道路も通っているところに給水という軍事組織でなくてもできる内容なので、ハリウッドでもヒーローにはならないでしょうね。普通に周囲の人が助けられるのにゴジラと知り合いだからゴジラ呼んできました、みたいな(違)。
_ めがねのパイロット ― 2019年10月19日 16時58分41秒
冷静な記事で好感が持てました。
SNSなど見ると、帰すのは悪い、という論調も見ますがやはり組織が組織だけに、手続きなり指示系統を無視した行動は慎まれるべき、と感じます。
あと、記事内やコメントでもありますが、自衛隊に頼りすぎの面は確かにありますね。
便利屋ではないのですから。
そういう意味でも、キチンとした自衛隊の位置づけは、彼らを守るという点でも重要ですね。
_ いつもとおりすがり ― 2019年10月19日 18時49分53秒
台風19号のドサクサに紛れて、新たな自衛隊海外派兵案/計画が:
ホルムズ海峡に護衛艦1隻を年内にも派遣へ 政府
10/19(土) 13:43配信
ttps://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20191019-00000025-ann-pol
抜粋ここから
安倍総理大臣は18日に国家安全保障会議を開き、海上自衛隊の艦艇や哨戒機の派遣を検討するよう指示しました。派遣先はオマーン湾やアラビア海北部の公海などのホルムズ海峡に近い海域です。政府は現在、ジブチに海賊対処任務のため派遣している哨戒機に情報収集の任務を追加し、新たに海上自衛隊の護衛艦1隻を派遣する方向で調整していることが分かりました。年内に派遣するかどうかを正式に決定する方針です。
抜粋ここまで
_ Haniwa ― 2019年10月21日 08時46分13秒
ありがとうございます。
>SNSなど見ると、帰すのは悪い、という論調も見ますがやはり組織が組織だけに、手続きなり指示系統を無視した行動は慎まれるべき、と感じます。
私もそう思います。厳格な法制度になっているのも、それだけの物理的な力を持っている組織だからだと考えます。
追記した防衛省の公式見解では、町が帰ってくれと言ったから帰ったことになっていますね。山北町長を嘘つきにすることで、自衛隊内部の統制問題や文民統制問題を回避しようということなんでしょうね。陸自第1師団長が帰投を命令したのかしていないのかは部外者にはわかりませんが、もし自衛隊上層部が手順無視の災害派遣行動に激怒していないのだとすれば自衛隊の組織はかなりまずいかもしれませんね。そうではないことを期待したいですが(外部には隠蔽しても内部的には深刻な議論と処分を期待したいです、外部隠蔽を容認するものではないですが)。
>あと、記事内やコメントでもありますが、自衛隊に頼りすぎの面は確かにありますね。
>便利屋ではないのですから。
>
>そういう意味でも、キチンとした自衛隊の位置づけは、彼らを守るという点でも重要ですね。
政権党は軍事力を増強したい方向なので、災害救助業務を専門にする組織を別立てにする気はないのだと思います。災害救助で国民に自衛隊をアピールしつつそれとは別の軍事力を増強する作戦のようですから。
■ いつもとおりすがり様
>台風19号のドサクサに紛れて、新たな自衛隊海外派兵案/計画が:
>
>ホルムズ海峡に護衛艦1隻を年内にも派遣へ 政府
>10/19(土) 13:43配信
>ttps://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20191019-00000025-ann-pol
自衛隊の領海から遠く離れた単独行動は、情報収集だとしても「専守防衛」から逸脱する可能性がありますね。いつまでこのような政権を継続させるつもりなんでしょう、国民は。
_ ノラ猫軍軍令部 ― 2019年11月06日 21時02分48秒
そしてHaniwa氏には野良猫給水車が毎晩口から給水を…
_ Haniwa ― 2019年11月08日 11時13分03秒
>戦前戦中の下剋上(昭和天皇)の前例を踏襲という事で……
まずいですよねぇ。自衛隊のほとんどの方もこれはまずいと認識されていることを祈ります。
>そしてHaniwa氏には野良猫給水車が毎晩口から給水を…
匂いのきつい水は…
そういえばバイクの前半分をカバーする超音波発生器の電池が切れていてストックもないので、ヨドバシに注文せねば。油断するとその隙にやられるんですよね。しかし、ノラ猫ってどうしてバイクや車におしっこ掛けるんでしょう(泣)。
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いや、法律を考えれば簡単なのですよね…
どっかの地方自治体と違って最悪に備える自衛隊は要請がある前から準備を始めてます(先だっての震災でも松島基地が波に飲まれる時には既に派遣準備された車が並んでました)。
出来るところ、近いところからやる、という事で近所の自治体に声かけして、実際どうだったかといえば自治体がモタモタしてるうちに恐らく給水して基地に戻れていたのでは…
軍隊、という視点であれば落第ですが救助隊、という視点で見れば100点の回答なのでは。
自分は医療職だったので震災の時も行きたい気持ちはあれど何も手を出せないもどかしさというのは身に染みて感じてます。
今回の事を十分に検討して「自衛隊に依頼しなくても迅速に対応できるようにする」か「速やかに白旗を上げて自衛隊に要請できるようにする」仕組みを作って欲しいと思います。
何となくですが仲の良い、とかでなくて一番近いところに声を掛けたのでは?と思います。
一緒に仕事するとあの人達はどっかの電力会社と違って「常に最悪を考えて、腹を据えて行動する」んだな、と感じます。
勿論極端いえば「デモが騒がしいからちょっと出てきて抑えてくれない?」になりますのでHaniwaさんのおっしゃる事は私も同意はできるのですが。
長文すみません。