レンズマウント物語(第3話):ニコンのこだわり(デジカメWatch)2012年06月28日 00時00分00秒

ニコンプラザ新宿:CONTAX G1、Carl Zeiss Biogon T* 21mm F2.8、Kenko L37 Super PRO、F8AE、+2/3補正、Kodak 400TX(TRI-X)、Nikon SUPER COOLSCAN 5000 ED(ICEなしGEMなし)

デジカメWatchに連載中の「レンズマウント物語」の第3話はニコンFマウントだ。筆者の豊田堅二氏は元ニコン社員で、ニコンダイレクトの前身であるニコンオンラインショップの店長をされていたこともある。店長時代はニコンオンラインショップの掲示板で「とよけんさん」と呼ばれ、気さくに質問や要望に答えておられた。
レンズマウント物語(第3話):ニコンのこだわり(デジカメWatch)

細かいニコンFマウントの変遷はここでは取り上げないが、ニコンが互換性に配慮して少しずつ移行していく企業だというのはその通りだろう。

そこで2002年には、絞り設定リングを全くもたない「Gレンズ」が登場した。

実はこの「Gレンズ」は大変大きな意味を持っている。それまでは一部のものを除き、最新のレンズでも1950年代や1960年代のカメラに装着して使えた。AFレンズでさえも「カニの爪」を取り付けてもらえば、初期のニコンFで使用できて露出計も連動したのだ。これがニコンの互換性に対するこだわりだったのだが、「Gレンズ」はほとんどのマニュアルフォーカスの一眼レフでは使えず、このこだわりの一角が大きく崩れたことになる。しかし反面、過去のユーザーへの配慮は時として新しい機能を実現する上で足かせとなる。そのあたりを熟慮した上での決断であったのだろう。

問題は絞りリングのないGタイプレンズだ。たしかに最新のボディそれもDXフォーマットのデジタルカメラで「普通に」撮影する分には絞りリングは「通常は」なくても困らないとも言える。しかし、たとえDXフォーマットであっても、広角レンズをBR-2Aリングを使ってリバースして拡大撮影するとか、ベローズを使って拡大撮影する際に絞りリングがないと絞りの操作に困る。ニコンには等倍以上により大きく撮影できる専用レンズがラインナップされていないから、広角レンズをリバースする必要性は他社よりも高いはずである。だからDタイプの広角レンズやAiニッコールレンズも残してあるのかもしれないが、広角ズームレンズでもリバースしたい人はいるはずだ。フィルムカメラでGタイプレンズが使えないボディが多いというだけがGタイプレンズの問題じゃないのだ。たったひとつのBR-2Aリングで等倍以上の拡大撮影ができて画質も劣化しないと言うことをどうして捨てるかなぁ。
ニコン「BR-2A/3リング」 ~マクロレンズよりも大きく写せるアクセサリー(デジカメアイテム丼:デジカメWatch)参照

これにはニコンの他の仕様も関係しているのだろう。ニコンの廉価機は、レンズがCPUタイプでないとボディの露出計が働かない。レンズをBR-2AリングでリバースするとたとえCPUレンズであっても接点が接触しないから(反対向きに付いてるのだから当然)、CPUなしレンズと同じになってしまう。だから完全なマニュアル露出になってしまう。これはレンズキットの廉価機を買った層にBR-2Aリング一つで世界が変わりますよとは言いづらい。

おまけにデジタル一眼レフのファインダーはフィルム時代よりも格段に退化しているから、マニュアルフォーカスもむずかしい。ピントの浅い等倍以上の撮影でファインダーでピントを確認するのは難しいという問題もある。ただ、これはライブビューでフォーカスアシストがあれば解決するようにも思う。

そんなこんなでどんどん互換性を削いでいくと、一眼レカメラの万能性というメリットも同時に削いでいっていることになる。だからミラーレスなどの発展途上のカメラに地位を脅かされる。

いつのまにか作戦

2012年、Gレンズの登場から10年が経過した。現在ではいつのまにかニコンの一眼レフ用の交換レンズはGレンズばかりになっている。

こうしてニコンのレンズマウントの歴史を振り返ってみると、非常に興味深いことに気付く。マウントを介した情報の伝達などで新しい方式に移行する際、ニコンはすっぱりと切り換えることはせず、必ず旧方式も残して新旧を併存させるのである。そして「いつのまにか」古い方式が消えている。

MF一眼レフの時代には「カニの爪」とAi方式の絞り連動機構の両方がレンズに設けられていた。しかし「カニの爪」はいつのまにか姿を消している。そしてAFレンズでは機械的なAi方式の露出計連動ガイドと、CPU通信による設定絞り値伝達が併存していた。だが、Ai方式の方はGレンズになっていつのまにか消えた。いや、絞り設定のリング自身が消えてしまっているのである。AFの方式についても、初期のものはボディ内に駆動モーターがあったので、その駆動力を伝えるカップリングがマウントに設けられていたのだが、レンズ側にモーターを内蔵したAF-Sレンズが登場し、カップリングを備えたレンズはいつのまにかほとんどなくなってきている。

急激な方式の変更は、ともするとユーザーの反発を招くが、このようないつのまにか作戦でユーザーをつなぎ止めながら新しい技術にソフトランディングしているのだ。これがニコンのこだわりと言える。

では、次に「いつのまにか」姿を消すのは何だろうか? 注意深く見守っていこうではないか!

ニコンの「いつまにか作戦」の恩恵に浴している私だが、「いつのまにか作戦」にも問題がある。どの仕様が「いつのまにか」姿を消すのか分からないから、あるときに廉価版の新製品をみてありゃ?と思うことになる。たとえばいま新品でモーター内蔵でないAFレンズを買うのは得策じゃないだろう。今後DXフォーマットのカメラでボディにAFモーターが付いているという保証はない。現行ラインナップではDXフォーマットでAFレンズモーターをボディに持っている機種はD7000しかない。だったらはやく広角単焦点レンズをAF-S化しなければ。しかしAF-S化と同時にGタイプ化されて絞り環がなくなると、広角レンズをリバースして等倍以上のより大きい撮影が困難になる。ニコンのこういうやり方は一眼レフのメリットをどんどん殺していっていると思うぞ。

次かどうかは分からないが長期的には「いつのまにか」姿を消すのはずばり一眼レフだと思う。一眼レフは報道やスポーツ撮影用の特殊機材になるだろう。そういう方向へ追いやってしまったのは他ならぬニコンなのだ。


ニコンプラザ新宿:CONTAX G1、Carl Zeiss Biogon T* 21mm F2.8、Kenko L37 Super PRO、F8AE、+2/3補正、Kodak 400TX(TRI-X)、Nikon SUPER COOLSCAN 5000 ED(ICEなしGEMなし)

新宿ニコンサロンや新宿サービスセンターのある新宿エルタワー28階から。

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