近づける広角レンズとそうでない広角レンズ(Photo of the Day) ― 2010年11月16日 00時00分00秒
写真家・田中希美男氏のブログに近づける広角レンズとそうでない広角レンズ(その2)(Photo of the Day)という記事が掲載されている。
広角レンズの中には、球面収差だけでなくディストーションやディフォルメーションの影響を受けて、近距離撮影になるほど微妙な歪みや不自然な遠近感、ボケ味の急激な変化が強調され、それが原因で「近づいて」撮れないレンズがある。しかし、いっぽうで被写体に近づいても歪みはほとんど目立たないしボケ味の崩れもなく遠近感も自然なままの、不思議な、レンズもある。理由は収差のあるなしではない、収差があっても近づけるレンズもある。
つまり、ですね、リコーの28mm画角のレンズは、GR1のころから「近づいて撮れる28mmレンズ」だったわけで、このA12 28mm画角のレンズを使ったときも、ああやっぱりリコーの28mmレンズなんだなあ、とちょっぴり感動した。一歩と言わず、二歩三歩の踏み込みができるレンズなんですよ。
広角レンズというのは、焦点距離が短い。そうすると、普通に設計するとレンズ群がフィルムや撮像素子に近いところに来る。ところが一眼レフだと間にクイックリターンミラーがあるから、フィルムや撮像素子に近いところにレンズを配置できない。そこでレトロフォーカス型というレンズ構成で短い焦点距離とある程度の長さのフランジバック(バックフォーカス)を両立させた。ところがレトロフォーカスタイプというのは近距離で性能劣化するようだ。
ニッコール千夜一夜物語第十二夜 NIKKOR-H Auto 2.8cm F3.5
おそらくレンズの構成が対称でないために近距離にピントを合わせるために繰り出していくとバランスが崩れるのだろう。NIKKOR-H Auto 2.8cm F3.5はレトロフォーカスタイプなのに歪曲収差が完璧に補正されている分、0.6mまでしか寄れない。
それで、レトロフォーカス型でありながら近距離での性能劣化を、近距離になるに従ってふたつのレンズ群の間隔を調整して非点収差を打ち消すようにした。これがニコンのいう「近距離補正機構」だ。
ニッコール千夜一夜物語第十四夜 NIKKOR-N Auto 24mm F2.8
他方で、レフレックスミラーのないレンジファインダーカメラ用の広角レンズは対称型を保ったままフィルムに近いところまでレンズを置くことが可能だ。ライカM型のレンズがあまり寄れないのは測距機構のためであって、レンズの性能のためではないと思う(最近のライカの広角レンズはデジタル用途を意識して対称型ではないのだが)。それで、AFカメラのCONTAX Gシリーズではビオゴン(Biogon)で0.5mまで寄れるようになっている。もちろんビオゴンには近距離補正機構などはなく、全群が繰り出す。
ニッコール千夜一夜物語第一夜 NIKKOR-O 2.1cm F4
そこで最初の田中希美男氏のブログの記事に戻ると、私なりの解釈では、「28mmレンズの中には、一歩二歩、三歩と前に出てフレーミングすると、とたんに描写の表情 ―― 描写特性 ―― が変化するレンズがある」というのは対称型ではないのに近距離補正のないレンズ、「同じようにぐんぐんと被写体に近づいても描写特性がほとんど変化せずに自然に撮れる28mmレンズ」というのは、対称型のレンズかレトロフォーカス型で近距離補正のあるレンズなのだと思う。
GR1やGR DIGITALは、レフレックスミラーがないのでレトロフォーカス型にする必要がなく、近距離でも良い描写のレンズを設計しやすいのだろう。CONTAX GシリーズのBiogon T* 28mm F2.8も同じだろう。
一眼レフ用では、Ai Nikkor 28mm F2.8Sは近距離補正機構登載で0.2mまで寄れる(最近のニコンは公式サイトの製品情報で、PC-E以外のMFレンズの構成図まで省略していて不満だ)。Carl Zeiss Distagon T* 2/28 ZF(ZE、ZK、ZF.2)も「フローティング」という名の近距離補正がある。
ただ、近距離補正機構がない28mmは駄目なのかというとそうでもなさそうだ。Ai AF Nikkor 28mm F2.8DはNIKKOR-H Auto 2.8cm F3.5と似たレンズ構成で0.3mまで寄れる。このレンズは持っていないので近距離での描写がどうなのかは分からないが、あんまり駄目という話は聞かない。これ以前のAF Nikkor 28mmの悪い噂は聞くが…。
ということで再びリコーの28mm相当のレンズの話に戻るが、リコー・GXR+GR LENS A12 28mmF2.5は気になるなぁ。APS-Cサイズ用だから、SONY NEX用にレンズだけ発売しないかな(笑)。GXRが売れなくなるから絶対にそんなことはしないと思うが(笑)。また、たぶんバックフォーカスの関係で一眼レフ用にはできないだろう。
写真は記事とちょっと関係ある(笑)。
GR DIGITAL、28mm相当、F3.5、1/350sec、ISO400、プログラムAE、-0.3EV
初代GR DIGITALのISO400なのでちょっと画像が粗い。弱い風でもふらふらと動く花だったので感度を上げて速いシャッタースピードで止めた。個人的には初代GR DIGITALはISO400が我慢の限度。それ以上の高感度ではちょっとアレだ。
コメント
_ ノーネームしたん ― 2010年11月16日 22時06分01秒
_ Roberto ― 2010年11月17日 08時19分29秒
広角ズームの最高峰オリンパスZD7-14mmは、寄ると全然ダメです。 建築には最高ですがネイチャーには向かないでしょう。 フォーマットとサイズの比からしても、ある意味、究極のレトロフォーカスレンズでしょうか。
SWCのBiogonは近接が素晴らしいです。ボケ味のきれいなこと!広角らしさを感じません。ピントも合いませんが(笑
LEICAのスーパーアンギュロンも目測で0.4mまで寄れますが、ボケ味がきれいでしたよ。
_ Haniwa ― 2010年11月17日 22時22分24秒
ええ、貯金はしたいです。Hologonとか色々欲しいものはありますので…。でもEPSONから35mmフルサイズのレンジファインダー機が出たときに買えるかどうか…(^ ^;
>>AF Nikkor 28mm F2.8D
>多分新製品の”G”とかが発売された途端に「アレは遺憾レンズなデス。」と言う人が現れ・・。
Ai AF Nikkor 28mm F2.8Dは、近距離補正機構を載せなかった代わりに、無限遠で像面が周辺に行くにつれてフィルムから見てレンズ側に倒れているんですよ。これが近距離になるに従って立って来てフィルム寄りになってくるように設計してあるらしいです(1995年のアサヒカメラニューフェース診断室の「メーカーは答える」に書いてました)。フィルムで使う分には、絶妙の収差バランスらしいです。たぶん遠距離だと像面湾曲は被写界深度内に入ってしまって目立たない、近づいてきて被写界深度が浅くなるとその深度内になるように像面湾曲は改善してきているという感じだと思います。デジタルだとこの像面湾曲がどう作用するかわかりませんが。
「アレは遺憾レンズなデス。」と言った人には、「デジタルカメラの方が遺憾なだけじゃないイカ。もっと撮像素子を改良シロ」と言います。
>やはり・・広角レンズ沼に・・、Haniwaさん!家を売る準備を(泣)。
既に28mm(相当)のレンズだけでも何本もありますね。家売るほどのレンズはないですが。他人の家を勝手に売買して…とか(笑)。
>自分もそう思うのですが・・本人の”目”の状態でどう映っているかは本人しか解らず・・、Haniwaさんが老人になってみて確認を・・あと数年です(泣)。
あと数年なんですか(泣)。浦島太郎じゃないんですから(泣)。あと数年だと年金の年数が足りなくて無年金になるんですが(泣)。
>”老化対応一眼”
お年寄りになるとそんなに見えなくなるんですかねぇ。でもそれに合わせて明るくするのはいいにしても、それでピントが見えなくなったら意味ないじゃないですか。視覚障害者用に信号機改良したら健常者には判断できなくなったとかそういうナンセンスに近いものがありますよ。こうなったら、光学ファインダーはピントの切れる暗いものでよし。暗くて見えない人には昔京セラから出ていたやつみたいなファインダーにスコープ付けてファインダー像を液晶モニターに映す方法で。
いま大阪の学校には「お笑いの授業」なんてあるんですか。生徒の進学先に「吉本総合芸能学院『NSC』○○人」とか書かれそうですなぁ。まあ関西人なら人生幸朗・生恵幸子両師匠の漫才は、身につけなければいけない教養みたいなものですね(笑)。
>しかも戦争自体はノラ猫が世界を統べているで起こりません・・、平和団体もノラ猫統治を肯定する事になるのです・・。
ならば、ノラ猫軍が仕掛けた戦争に見せかけて世界各地で紛争を…。もう何が最初の目的だったのかも分からなくなってただやみくもに紛争を煽る輩に…(泣)。ああ、ハニワニワを猫糞から防衛するのが目的だった…(遠い目)。
_ Haniwa ― 2010年11月17日 22時34分55秒
オリンパスZD7-14mmは、寄ると全然ダメなんですか。いろいろ特徴があるんですねぇ。
そういえばレンズ前1cmまで寄れる初代GR DIGITALのレンズも焦点距離は5.9mmですからレトロフォーカスの要素が入っているんでしょうね。
SWCのBiogonはいずれ使ってみたいですねぇ。いつになるか分からないですが(泣)。対称型だと繰り出しても性能劣化が少ないみたいですね。Ai AF Nikkor 50mm F1.8Sも対称性が強いのでベローズや接写リングにニコンが推奨していました。
スーパーアンギュロンも近接がいいですか。発売されたばかりの田中長徳氏の「ライカワークショップ」にスーパーアンギュロンとRDPの作例が出ていました。スーパーアンギュロンも使ってみたいですねえ。
_ Roberto ― 2010年11月18日 08時57分14秒
でも近接では周辺が強烈に流れます。ボケ味なんてもんじゃないです。
超広角接写にはまったく使えません。
レトロフォーカスでも、Rアンギュロン21mm/f4はボケがきれいでしたよ。フレクトゴンもいいらしいですね。
_ Haniwa ― 2010年11月18日 12時09分46秒
ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F4.0は、14mm~28mm相当で歪曲が驚異的に補正されているというのはすごいですよね。Hologonなんて単焦点ですしF8固定ですからね。しかし、ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F4.0は値段も驚異的な247,800円です。これは私には買えない値段ですね。しかし、こういうレンズがちゃんと揃っているのは偉いです。頑張っていつか買おうという目標のないシステムは悲しいですもの。
Rアンギュロン21mm/f4はボケがきれいですか。21mm F4というスペックがなにか物欲を刺激しますねぇ(買えないですが…)。
そういえばAi Nikkor 28mm F2.8Sも最近接の20cmでもボケは素直な感じですね。これは近距離補正機構が効いてるからなんでしょうけれども。
ttp://gallery.nikon-image.com/184413499/albums/757159/photos/8351261/
_ Roberto ― 2010年11月18日 22時34分29秒
ttp://robertohouse.com/archives/3772723.html
_ Haniwa ― 2010年11月22日 10時20分08秒
■ Roberto様
ああ、SWC Biogon 38mm F4.5いいですねぇ。歪曲収差がなく周辺部も自然な感じに写るのでいいですねぇ。ぱっと見て画角が分からないんですよねぇ。ああ、SWC Biogon 38mm F4.5いいですねぇ。
E100VSも最近使っていなかったのでまた使ってみます。
_ Roberto ― 2010年11月22日 13時01分46秒
個人的に中判ベストレンズと思っているプラウべルマキナ670は値上がり気味で、SWCと逆転しそうな勢いです...
_ Haniwa ― 2010年11月22日 15時46分35秒
うお、SWCもそこまで来ましたか。D700買うお金があったらもうちょっと頑張ってSWCですねぇ。ないんですが(泣)。
プラウベルマキナは高くなってきていますね。きれいな個体も少なくなってきているような…。マキナW67が欲しいと思うことがありますがため息しか出ません…。
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>AF Nikkor 28mm F2.8D
多分新製品の”G”とかが発売された途端に「アレは遺憾レンズなデス。」と言う人が現れ・・。
歪まないレンズが良い時も当然有りますが・・不自然な写りが欲しい・・とかも有るので・・やはり・・広角レンズ沼に・・、Haniwaさん!家を売る準備を(泣)。
ここに書きますが
>あと、ピントが合ってても合ってなくてもファインダーの明るさは同じ~
自分もそう思うのですが・・本人の”目”の状態でどう映っているかは本人しか解らず・・、Haniwaさんが老人になってみて確認を・・あと数年です(泣)。
>MFカメラのスクリーンで暗くて構図が見えないというのならそれはもうEVFしかないですね。しかし、MFカメラのスクリーンで構図が見えないぐらいの暗視能力だと、夜道歩けないんじゃないかと思いますよ。
御老人層はそういう事が多いのではないかと・・、よく電球とかの明るさの年齢別指標とかで若いほど光の明るさは少なくてよい・・と・・、
そういう事ならファインダーがアレな一眼レフとかミラーレスは・・”老化対応一眼”という嫌な名称にされそうですなぁ(泣)、さすがにそれはかわいそうな・・。
>関西人であっても、世代が違って人生幸朗・生恵幸子両師匠の漫才を見たことがなければ、やはり血を見ることに…(泣)。
イ~ヤ!観るのです!、学校などでのお笑いの授業時間で学ぶのです!、
大阪が誇る学校の授業・・お笑い・・、皆学校でボケとかツッコミや・・落語を始めとする授業の科目で必須で”人生幸朗・生恵幸子”大師匠は観ます!、知らないと他県のスパイとして淀川に沈められます・・。
>>特にHaniwa氏は・・生まれてきた事を後悔するような扱いに(泣)。
>まあ猫が世界征服したときには、人間に生まれてきた人はたいていは生まれてきたことを後悔するとおもいますが…。そんな世界に生まれたのなら仕方がないです、レジスタンスとして猫に抗する人生を送るしかないですね…。
いえ・・普通に普通の人は幸せに暮らします・・一部の”テロリスト”以外は(笑)、
戦争が無いのに軍備が各国盛んで・・、人間の軍をノラ猫が肯定している為に各国の軍もノラ猫の身方です・・、パレードとか総合火力演習等で各国の軍隊の優劣が決められます、
しかも戦争自体はノラ猫が世界を統べているで起こりません・・、平和団体もノラ猫統治を肯定する事になるのです・・。