「ニコンの技術者集団」(ダイヤモンド社) ― 2008年01月24日 00時00分00秒
「ニコンの技術者集団-日本光学の完全主義思想」(現代情報工学研究会著 ダイヤモンド社刊 1985年)をさる方にお借りした。
内容は日本光学(現ニコン-1988年に社名変更)がいかに完全主義なのかを書いたものだ。たしかにNikon D3などなかなか出なかったかわりにかなり古いレンズでも破綻なく撮影できるといった「出す以上は完璧に」という姿勢は現在でもあるだろう。
古田たちは二月、北海道の中山峠へカメラの機材をかついで登った。まだ発表前だから人目に触れてはいけないと、作業はすべて人のいない山の中で行われた。持参したのは自社のカメラだけではない。競合他社のカメラもテストにかけられた。真夜中の山中で、夜明けのスキー場で、猛吹雪のなかでも、マイナス20度の耐寒確認のためのテストがくり返された。
ニコマートELは、マイナス20度の極寒のなかでも、電子系統のトラブルはなく十分に作動することが証明された。もちろん競合製品のデータも綿密に取られた。
しかし、新製品説明会では、ニコマートELの耐寒精度はマイナス15度と発表された。カタログにもマイナス15度と書かれている。クリアーした耐寒気温よりも5度も高くなっている。露出精度で一段分の余裕を持たせたわけだ。日本光学の製品では、カメラにかぎらず、精密度や耐久度に関する数字は、実際にクリアーした数字よりも低い数値で発表される。これが営業サイドから「うちの技術陣は、過剰品質で困る」と批判される原因ともなっている。
営業に言わせれば、実際にテストの結果、マイナス20度をクリアーしたのだから、発表会でもカタログでも、その数字で公表すればいいではないかという意見になる。もし、どうしても20度ではダメだというなら、せめて18度ぐらいにするべきだ。なぜ、せっかく苦労してクリアーした数値を、5度も落とす必要があるのだということになる。そうでなくとも、他社製品といかに差別化するかで厳しい販売環境におかれているのに、少しは売るほうの身になって考えろといった不満が出る。
しかし、こうした営業サイドの主張が入れられることは日本光学においてはめったにない。いや、一度としてなかったと証言する営業部員も多い。こうした議論が起こるとき、表現は違っても必ず技術陣から出される主張は同じだ。
「ニコンに限っては、それは許されない」この場合のニコンとは、カメラだけでなく、日本光学の全製品を指す。このことに関しては、口の重い技術者たちも雄弁に論陣を張る。
「うちの最大の売りものは"高品質"です。そしてそれをつくりだす"技術"です。ニコンの製品への信頼性と安心感、それを揺るぎないものに保障することこそ差別化じゃないですか。だからこそ万一を考えて、絶対に大丈夫な安全値をお客さんに発表するんです」「ニコンの技術者集団-日本光学の完全主義思想」(現代情報工学研究会著 ダイヤモンド社刊 1985年)106-108ページ
たしかにいまでも連写性能とかの発表数値は絞り値に関係なく最低でもその枚数が規定時間内に撮れるような数値である。
しかし、ファインダーにはこういう基準は当てはまらないんだろうか。いまでもこうした技術陣の姿勢があるのか分からないが、おもしろレンズ工房はニコンの基準を満たしていないからニッコールは名乗れないとする一方で、デジタル一眼レフのファインダーはどうしてあんなのなのか。ニコンを名乗れなかったニコマート以下じゃないか。どうも納得がいかない(笑)。
まあ営業と技術陣のこうした関係が崩れたからこそ、いまのニコンのデジタル一眼レフのシェアがあるのかもしれない。しかし、ファインダーはなんとかしてよ。ピントの分からない一眼レフというのはものすごい矛盾だ。最高級機に限らず、ニコンを名乗る以上廉価機でもピントがピシッと分かるファインダーを望む。
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